Hand Drum Workshop&Seminnar presented by Hand Drum Masters
■イナンナ・ドゥムジの神話(イナンナの冥界下り/シュメール)
この物語は紀元前第2000年期前半に今日伝わる形で書きとめられました
前2350年頃サルゴンによって建設されたアッカド市が言及されているので
それよりも後のことは確かです
アッカド版「イシュタルの冥界下り」の起源となった物語です
天の神が冥界へ下るためには、いろいろな準備が必要でした
まず、いろいろな神殿で女神が持っている地位を退くことで
彼女はウルク、バドティビラ、ザバラム、アダブ、ニップル、キシュ、アッカドの
各都市にある神殿に別れを告げました
それから女神イナンナは、七つの神力を集めて手につけ、身を飾り始めました
まずシュガルラと呼ばれる王冠をかぶり、心を和ませる一ニンダン(約6m)の輝く葦の杖を手に持ち
あらゆる人を惹きつけるラピスラズリの首飾りをつけ、黄金の腕環をはめました
貴婦人の長衣であるパラ衣裳で身を覆い、人を招き寄せる香水をふりかけました
それから女神は、小間使いの女神ニンシュプルを呼んで言うには
「いつも気持ちの良い言葉を語る私の使者よ
私はこれから冥界へ下って行きます
私が冥界に着いたころに、あなたは丘の上で私のために嘆きなさい
王座の間で太鼓を私のために叩きなさい
神々の住まいを訪ね歩き、 私が冥界でひどい目にあったり
殺されることが無いように、大神たちに助けを求めなさい
大神たちの前では涙を流し、言葉をつくして、助けを求めなさい」
それから女神イナンナはラピスラズリのように輝かしい冥界の宮殿へと進んで行きました
そこには門番ネティがいて、近づくものを見張っています
「門を開けなさい、門番よ、門を開きなさい!」
門番ネティは、天界の女神イナンナであることを知ると言いました
「太陽が登り現れるところの女神イナンナが、なぜ不帰の冥界にやって来たのですか」
浄らかなイナンナは答えます
「私の姉上である冥界の女王エレシュキガルのために
彼女の夫グガルアンナがお亡くなりになったとき
彼の葬儀に参列するために、私は供物のビールを大いに注ぎました
まさにそうなのです」
ネティはエレシュキガルにこのことを伝えました
エレシュキガルは妹イナンナと仲が良くないので、この知らせに腹を立てて言うには
「門番ネティよ、よくお聴きなさい
おまえは冥界の七つの門を、私の妹、女神イナンナのために開けてやりなさい
一つの門に入るたびに、身に付けている飾りや衣服を彼女から取り去りなさい
これが冥界の掟です」
女神イナンナが冥界の第一の門に入ると、彼女の王冠が持ち去られました
「こればどういうことなのです」
「これが冥界の掟なのです、女神イナンナよ、掟には従わなければなりません」
女神が第二の門に入ると、心を和ませる一ニンダンの輝く葦の杖が持ち去られました
「こればどういうことなのです」
「これが冥界の掟なのです、女神イナンナよ、掟には従わなければなりません」
このようにして、第三の門ではラピスラズリの首飾りが持ち去られ
第四の門ではペンダントが、第五の門では黄金の腕環が、第六の門では胸飾りが持ち去られました
そして女神が第七の門に入ると、彼女の貴婦人の服、パラ衣裳が持ち去られました
「こればどういうことなのです」
「これが冥界の掟なのです、女神イナンナよ、掟には従わなければなりません
人間は素裸でここへやって来るのです」
こうして素裸にされた女神イナンナは、冥界の宮殿に連れて行かれましたが
冥界へ下って来たという理由で裁判にかけられ、エレシュキガルと
そのまわりにひかえている七人のアヌンナキ(神々の集団)によって有罪を宣告されました
イナンナの魂は飛び去り、死体となってその場に倒れ、宮殿の壁に吊り下げられました
イナンナが冥界の入口へと向かって三日三晩たったころ
女神の小間使いニンシュブルは、丘の上で彼女のために嘆き、王座の間で太鼓を打ち鳴らしました
大神たちのもとに行き、主人が冥界へ行ったことを伝え、彼女を助けるよう訴えました
まずエクル神殿でエンリル大神に逢い、その娘であるイナンナを助けるよう求めましたが
エンリルはイナンナの勝手な振る舞いを非難し、訴えを聴き入れません
次にニンシュブルはウル市にあるエキシュヌガル神殿でナンナル神に同じことを訴えましたが
ナンナルもエンリルと同じことを言い、訴えを聴き入れません
次にエリドゥ市(エンキ神の神殿がある)へ行ってエンキ神に訴えました
エンキはイナンナの運命を心配し、彼女を救い出すことを考えてくれました
彼はまず爪の垢からクルガルラとガラトゥルという二人の人物をつくり出しましたが
これらは一種の神官です
そしてクルガルラには<命の食べ物>を、ガラトゥルには<命の水>をわたして言うには
「お産したエレシュキガルは子供たちの故に苦しんでいる。病気なのだ
おまえたちは、冥界へ行って、まず病で苦しんでいるエレシュキガルを治してやりなさい
そして彼女がそのお礼に川の水か畑の大麦をくれるといったら
それを断り、壁にかけられているイナンナの死体を譲り受けなさい
そして<命の食べ物>と<命の水>を死体にふりかければ、女神イナンナは立ち上がるであろう」
クルガルラとガラトゥルは急いで冥界へ下って行きました
彼らは病床にあるエレシュキガルを見て、その病を治してやると
彼女はお礼に川の水と畑の大麦を贈ろうとしましたが
二人はこれを受け取らず、壁にかけられているイナンナの死体を求めました
エレシュキガルはこれを承知し、死体は壁からはずされました
二人が<命の食べ物>と<命の水>をイナンナの死体にふりかけると
イナンナはよみがえり、立ち上がりました
イナンナが、この忌まわしい冥界から去ろうとすると、冥界のアヌンナキが言うには
「イナンナよ、冥界から地上に戻るためには、代わりの者を一人ここに連れて来なければだめだ」
イナンナはそのことを承知し、地上へ昇って行きました
そして、代わりの者を冥界へ連れて行くために、精霊のガルラたちもついて行きました
地上では、喪服を着た小間使いニンシュブルが生き返った女神イナンナを見て
足元に身を投げ出して喜びました
精霊たちはニンシュブルを代わりの者として冥界へ連れて行こうとしましたが
イナンナはこれをおしとどめて言うには
「彼女は良い言葉を語る使者
私のために大神を訪ね歩いて、助けるよう計らってくれたのです
彼女を引き渡すわけにはいきません」
次にウンマ市のシグクルシャツガ神殿へ行きますと
喪服を着たシャラ神が生き返った女神イナンナをみて、足元に身を投げ出して喜びました
精霊たちはシャラを代わりの者として冥界へ連れて行こうとしましたが
イナンナはこれをおしとどめて言うには
「彼は私のために歌をうたう者、私の髪の毛を整えてくれる人です
彼を引き渡すわけにはいきません」
次にバドティビラ市へ行きますと
喪服を着た主神ラタラクが、生き返った女神イナンナをみて、足元に身を投げ出して喜びました
精霊たちはラタラクを代わりの者として冥界へ連れて行こうとしましたが
イナンナはこれをおしとどめて言うには
「彼は私のそばに使える宰相です。彼を引き渡すわけにはいきません」
次にクラブの原へ行きますと、イナンナの夫である若い牧神ドゥムジは
喪服をつけず、立派な衣服を着て楽しそうにしていました
イナンナは、自分が辛い目に会っているのに悲しみを示していない夫ドゥムジを見るなり怒り狂い
「精霊たちよ、あのドゥムジを冥界へ連れていくがよい!」
精霊たちはドゥムジに飛びかかり、捕まえました
ドゥムジは怖れ、天に向けて両手を上げ、太陽神ウトゥに祈って言うには
「太陽神ウトゥよ、あなたの身内の者である女神イナンナの夫を助けたまえ
私の姿を変えて、冥界の精霊ガルラたちから救ってください
私を姉のゲシュティンアンナのところへ行けるようにしてください」
太陽神ウトゥはドゥムジの運命を憐れみ
彼の姿を蛇に変えて、ゲシュティンアンナの所へと導きました
天のぶどうの樹の神であるゲシュティンアンナは、
追われ、傷ついている弟をみて嘆き、彼をかくまいました
精霊ガルラたちは、逃げてしまったドゥムジを追って八方探しまわり
ついにゲシュティンアンナのもとまで来て、彼女をひどい目に会わせ
家の中を捜しまわりましたが、ドゥムジを見つけることはできませんでした
次に精霊たちは、野原の羊小屋を探して、ここに潜んでいたドゥムジを捕まえ
ついに冥界に連れ去りました
*
ここから先は、残されている粘土板がきわめて断片的で、あまりよく分かりません
しかし伝承系統の異なるウル出土の物語の記述などから推定しますと
ドゥムジは冥界で有力な神となり、姉のゲシュティンアンナは弟を捜し求めて
ついに冥界で再会しますが、どちらかが冥界に残らなければならないので
姉と弟は一年の半分ずつ、つまり夏季と冬季を交替で残ることにしたようです
以下その最後の部分を記載します
*
「あなたが半年、あなたの姉さんが半年
あなたが元気に動きまわっている間は、彼女は倒れ伏し
あなたの姉さんが元気に動きまわっている間は、あなたが倒れ伏すのです」
浄らかなイナンナはドゥムジをその身替りに与えました
浄らかなエレシュキガルよ、あなたの賛歌を歌うことはすばらしい
或る者の蘇りは他の者の死を意味する。この神話のテーマの一側面である。牧神である
ドゥムジは春に穀物が収穫され、家畜が肉の貯蔵のために屠殺されると、冥界へ赴く。姉
のゲシュティンアンナ(天の、または気高いぶどう樹)はぶどうの収穫時期である秋に冥
界に下っていき、ドゥムジと交替する。
豊穣の女神イナンナが冥界に下る理由は説明し難いが、人々の倉庫に食物の貯えがなく
なってしまう時期(晩冬)にイナンナは死に、それをエンキが生命の草と水で復活させる
という解釈もある。実際、春になると河川に水が溢れてきて、砂漠は緑野に変わり、穀物
は実り、家畜も殖える。そうすると、今度は肉の貯蔵のために家畜が屠殺される。これは
牧神としてのドゥムジの死である。
また、物語の最後はエレシュキガルを敬うかたちで締めくくられている。これは、この
物語がイナンナ、ドゥムジだけではなく、むしろ敵対者である冥界の女王にも大きな焦点
をあてたものであることを示している。
[back]